インドの話 2_3

 

今日はアクララを出発する日だ。セナがコロンボ駅まで同行してくれた。最後まで親切。そのわりに何か切実なものを感じるのは何故だろう?それはきっと、もっともっとお客さんが必要だからなのだろう…。今の私には、切実なんて言葉は重過ぎる…。

 

 

 

彼は私を見送った後、今日もまたコロンボ駅で客引きをする。3時間離れたアクララへ客を引っ張ってくるという難しい仕事。「自分はまだそのレベルまで努力していないだろ?」旅を終えて帰国した後も時々ふと、このセナおじいさんの事を思い出す。

 

 

 

コロンボからキャンディへの列車でベルギー人2人と同席。1人は日本語が喋れた。この時はまだワールドカップで対決するなんて知らなかったので、話題に苦労する。

 

 

 

 

キャンディ到着。タクシーで彼らといっしょに「Sevana Guest House」へ向かう。彼らは、コミッション(宿がタクシーの運転手に支払う手数料。宿はそれを部屋代に上乗せして回収する)について細心の警戒を払う。私はまだそんなに気が回らない。

 

 

 

夕食はオランダ人青年と同席。「何してるの?」「留学?医学?」「なんでスリランカなの?」西洋人とトークすると消耗が激しい。けれど去年より頑張っているよね!

 

 

 

キャンディからバドゥッラへ。9時間ぐらいかかった。それは「遠いから」というより「遅いから」だ。だが、アジア1景色が美しい路線と言われているだけあって、車窓からの眺めは格別、逆に遅い事がサービスなのかもしれぬ。いや、きっとそうだ。

 

 

 

 

線路はたいてい道路に並行で、なるべく標高の低い土地に敷設されるものなんだろうが「ここはあえて森の中・丘の上を走ってみたい」的な敷設。嬉しい事に、この車両には窓ガラスが無いから、フィルターを通さず存分に味わう事が出来る。そして自然の匂いに混じって、トイレの匂いが前方車両から漂ってくるあたり、抜け目がない。

 

 

 

 

犯罪ファイル1  詐欺

 

 

現地の若い男に「終着駅で返すから100ルピー貸して。俺は用事があるから途中で降りるけどバスで必ず終着駅に向かうから」と言われたが終着駅に彼はいなかった。

 

 

 

今日はドゥンヒンダ滝に行く予定。出発準備をしている時に荷物の異変に気付いた。

 

 

 

犯罪ファイル2  窃盗

 

 

前日の列車移動中に、荷物から目を離したスキに同席していたスリランカ人男性にカメラフィルムとウェットティッシュを盗られる。なお、詐欺被害も報告されている。

 

 

 

5:45の列車に乗る為、5時に起床。心配していた通り、宿の出入口は閉ざされていたが、宿のおっちゃんがドアの音に気付いて起きてきて開けてくれた。外に出てみれば真っ暗で誰もいないが、明け方なので多分大丈夫だろう。駅まで徒歩で20分。

 

 

 

私「ハロー。5:45発、キャンディまで大人1枚ください。」

駅「これはキャンディまで行きません。それは9:10です。」

 

 

 

おとつい、行く言うたやん。しかも5:45が9:10よりベターって言うたやん。突っ込みたいのを抑えて、予定通り6時出発・13時乗継・15時キャンディ到着。

 

 

 

ホテルにチェックイン後、キャンディ湖畔を散策。途中、出会った青年が仏歯寺内にある菩提樹へ案内してくれた。菩提樹はまるで神殿?のように、幹の部分がブロックでコーティングしてあって、階段が設えてあり、そこを登っていくと菩提樹の中腹に触れる事ができる。彼らは菩提樹を周回しつつ、祭壇には、水を捧げ・祈る・詠う。

 

 

 

私が階段を登ると、ある家族が壁にもたれて座って御詠歌中だった。特におばちゃん3人が熱心。しかし1人、詠ってなくて面倒くさそうにしている少女がいた。彼女は暇だったのだろう、ふと階段のほうへ視線をやると、ファニーな日本人(後日談)。

 

 

 

菩提樹という聖なる樹の下ゆえにか、宗教的な感じの漂う彼女。と思いきや、御詠歌そっちのけで、ファニーなこちらを観察。菩提樹を一周してきたら再び目が合った。

 

 

 

私「ハ、ハロー(挙動不審)!」

 

 

 

次の瞬間、おばちゃんたちは詠唱を中断して開眼、こちらを凝視。速攻で退却する。

 

 

 

宿で朝食後、街へ。今夕のキャンディダンスのチケットやサロン(男性用のスカート状の布)を購入して部屋に戻る。キャンディダンスは夕方5時半スタートだ。同じころ仏歯寺のセレモニーも開かれるらしいので、それも気になる。どちらに行こうか?結局私が選んだのはそのどちらでもない、菩提樹の下で昨日の家族の御詠歌を鑑賞する事であった。少女は「ピンキー」という西洋風?なニックネームで呼ばれていた。

 

 

 

彼女が英語を話せなかった時に備えて、シンハラ語をいくつか覚えて行ったのに、彼女は英語ペラペラだ。しかもオーストラリア留学を控えているというから、かなり裕福な家庭のお嬢さん(18)だ。彼女達は、7日続けてお祈りに来る(昨日が初日)という。なんとなく今日もいそうな気がして菩提樹を訪れた私の勘は当たっていた。

 

 

 

彼女は明らかに昨日よりおしゃれになっていた。そして「昨日別れた後、街であなたを見かけたわよ」と言う。ママもまた「彼の日本の住所を教えてもらいなさい」と娘に促していて、順調すぎるお見合いのような雰囲気だ。明日もまた合う約束をした。

 

 

 

私は宿に戻って、スタッフと雇われマネージャ(ボス)に、彼女らについて話した。

 

 

 

ボ「俺が(結婚の)アレンジをしてやる。電話番号は?」

ス「俺も応援する。明日は俺も一緒に菩提樹に行くよ!」

 

 

 

「NO!NO!」なんという恐るべきポジティブさ。私は彼らを必死で抑え込んだ。

 

 

 

 

今日も夕方、菩提樹の下で楽しく話していた。すると「来るなよ」と言っていたのにもかかわらず、宿のスタッフが現われた!「妙な事、口走るなよ…」彼に望む事はこれ1点だけであったが、初対面なのにママと会話を始めてしまっているこの勢いではその望みも叶わなさそうだ。聞き耳を立てるも、シンハラ語なので全く分からない。

 

 

 

結局、2人が何を話しているのか分からないまま5~10分ほど経ち、彼は立ち去っていった。ほとぼりが冷めた頃に、ママはいきなり断定的な強い口調で切り出した。

 

 

 

マ「No marriage! No girl friend!」

 

 

 

1週間楽しく過ごしたかったのに、スタッフ&ママの速攻が決まり3日目で終わる。

 

 

 

あまりのショックに「あれ?結婚したいなんてちょっとでも言ったっけ!?」と気付いたのは宿に帰った夜であった。あいつが「この日本人はベリーナイスだ、スリランカ人が好きだ、彼女と結婚したいだ!」とママに代弁プロポーズしていたのだった。

 

 

 

お互いのベクトルは自然と別れに傾いた。私は明日からダンブッラ・シーギリヤに旅立つよと告げた。別れ際、ママはチョコレートケーキを買って私に持たせてくれた。

 

 

 

彼女達はあと4日間お祈りにくる。美しい別れをとるか、それとも、NONO言われてもなお通い続けるか…。ポジティブなスリランカ人ならどちらを選ぶのだろうか?

 

 

 

宿のスタッフとボスは、楽観的に私を迎えてくれた。「何を言ってるんだ。ケーキくれたんだから、ママは君を好きに決まってんじゃん!」彼らはケーキをほおばりながら自信満々に励ましてくる。しかしここにきて、ボス50歳にして未だ独身という衝撃的事実が判明。一番恋愛相談してはいけない相手を致命的に選んでしまっている。

 

 

 

昨晩から風邪気味だったが、もう旅立たなければならない。ちょうど宿のスタッフが彼の故郷マータレーに帰郷する日だったので、次の目的地ダンブッラへの道中なもんだから立ち寄ってやったった。彼は親切にも実家に招いてくれた。とても小さい集落で、なんと村の女性は全員彼の親戚になるらしい。「うちの村の女はみんなすごい美人だズラ!」自信満々で誇らしそうに私に言う彼とのズレは最後まで直らなかった。

 

 

 

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